福井地方裁判所小浜支部 昭和35年(わ)20号 判決 1960年12月02日
被告人 坂本三郎、坂本良夫こと李正植
昭五・一〇・三生 土木請負業
主文
被告人を懲役拾月に処する。
ただしこの裁判確定の日より弐年間右刑の執行を猶予する。
理由
(事実)
被告人は
第一、昭和二二年勅令第二〇七号外国人登録令施行の以前から同令附則第二項に基く所定の登録申請をしないまま本邦内に在留していた朝鮮人であるが、昭和二七年四月二八日外国人登録法の施行に伴い、同勅令が廃止されて同令に基く登録申請義務を免れると共に新たに同法第三条一項に基き出生その他の事由により出入国管理令第三章に規定する上陸の手続を経ることなく本邦に在留することとなつた外国人として、同法施行の日から三〇日以内にその居住地の市区町村の長に対し所定の登録の申請をしなければならないこととなつたのに、昭和三五年一〇月一二日までこれが申請をしないで、同法施行当時は京都市伏見区所在墨染駐留軍キヤンプ内、昭和二八年九月頃以降は福井県大飯郡大飯町尾内三五号の二五番地山田伊三郎こと徐卆祚方に居住して引続き本邦に在留し、
第二、法令に定められた運転の資格を持たないで、
一、昭和三五年五月七日午後五時四五分頃福井県大飯郡高浜町和田地内国道二七号線において、第一種原動機付自転車(大飯町第一一二九号)を運転し、
二、同年六月八日午後一〇時三〇分頃同郡大飯町本郷大橋附近道路において、前記第一種原動機付自転車を運転し、
三、同月一〇日午後二時三〇分頃同町本郷一二二号二一の二番地先道路において、前記第一種原動機付自転車を運転し、
四、同月一一日午後一時四〇分頃同郡高浜町宮崎関西電力株式会社高浜営業所附近道路において、前記第一種原動機付自転車を運転し、
五、同月三〇日午後五時一五分頃同郡大飯町本郷一四一号二番地先道路において、前記第一種原動機付自転車を運転し、
たものである。
(証拠)(略)
(適条)
被告人の判示各所為中第一の点は外国人登録法第一八条第一項第一号、第三条第一項に、第二の点は各道路交通取締法第二八条第一号、第七条第一項、第二項第二号、第九条の二第一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により最も重い第一の外国人登録法違反の罪の刑に法定の加重を施した刑期範囲内において被告人を懲役一〇月に処し、なお諸般の情状に鑑み刑の執行を猶予するを相当と認め、同法第二五条第一項に従いこの裁判確定の日より二年間右刑の執行を猶予することとする。
(一部免訴の判断)
本件登録不申請に係る公訴事実のうち外国人登録法施行の時期以前に係る部分即ち被告人は出生以来本邦に在留する朝鮮人として昭和二二年勅令第二〇七号外国人登録令が施行された昭和二二年五月二日から三〇日以内に居住地市町村の長に対し所要事項の登録を申請しなければならないのに、同令廃止に至るまでこれが申請をしなかつたとの点に対する当裁判所の見解はつぎのとおりである。
外国人登録令施行の時期以前から本邦に在留する外国人に対しては同令附則第二項により同令第四条の規定に準ずる登録申請の義務を課せられていたことは右関係法条の明定するところである。
ところがその後施行された外国人登録法は、その附則第二項において外国人登録令(昭和二二年勅令第二〇七号)は、廃止する、附則第三項においてこの法律施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお、従前の例によると規定し、又その第三条第一項においては本邦に在留する外国人は、本邦に入つたとき(出入国管理令第二六条の規定による再入国の許可を受けて出国した者が再入国したときを除く。)はその上陸の日から六〇日以内に、本邦において外国人となつたとき又は出生その他の事由により出入国管理令第三章に規定する上陸の手続を経ることなく本邦に在留することとなつたときはそれぞれその外国人となつた日又は出生その他当該事由が生じた日から三〇日以内に、その居住地の市町村(東京都の特別区の存する区域、京都市、大阪市、名古屋市、横浜市及び神戸市にあつては区。以下同じ。)の長に対し、次の各号に掲げる書類及び写真を提出し、登録の申請をしなければならないと規定(昭和三一年法律第九六号による改正前も同旨)したのであるから、同法が日本国との平和条約発効に伴い民主、独立の国家として発足するに当り、旧登録令の根拠法令たるいわゆるポツ勅に代るべきものとして旧令廃止の形式を以て新たに制定された経緯をも顧みるときは、冒頭事実の部摘示のとおり、同法はその施行と共に前叙外国人に対し旧令に基く登録申請義務を免除し、同時に同法第三条第一項所定のとおりその他の事由により本邦に在留することとなつた外国人として旧令廃止後三〇日の猶予期間をおく登録申請義務を新たに課したものと解される。
それ故に前叙外国人にして旧令廃止に至るまで所定の登録申請をしなかつた者は、新法施行後も前掲附則第三項に基き昭和二四年一二月三日政令第三八一号第一三条第一号所定の刑責(一年以下の懲役若しくは禁錮又は一〇、〇〇〇円以下の罰金)を免れえないのであるが、一方旧令廃止と共に同令に基く登録申請の義務が消滅したのであるから、それまで継続した該犯罪も同時に終了し且つその時から公訴時効の進行が開始されたものといわねばならない。(最高裁判所昭和三一年五月四日判決―集一〇巻五号六三三頁―の適条、大阪高裁昭和二七年一〇月七日判決―高集五巻一一号一九二九頁各参照。なお上記説示に反し、継続犯に関する限り、立法の形式は如何にあれ、単に刑罰法規に変更があつたに止まるとの見解の下に、この種事犯に対しては新法所定の罰則を以て臨むべきであるとして、新法施行後も旧令に基く登録申請義務が存続する趣旨にうかがわれる名古屋高裁昭和二八年一二月一五日判決―高刑集六巻追録一九二九頁―は法体系の統一を害するもので賛成し難い。)
然るに本件公訴は旧令廃止後三年(前記犯罪の時効期間は三年)を経過した昭和三五年八月二五日に提起されたのであるから、旧令廃止以前の登録不申請に係る公訴の部分は時効完成を理由に免訴されるべきであるが、該部分はさきに判示した新法施行後における登録不申請の所為と継続一罪の関係にあるものとして起訴されたものと認められるので、主文において特にその旨の言渡をしない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 中久喜俊世)